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悪魔とトオル 第二話

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 トオルは頷こうとしたのを一旦躊躇って、少し考えました。
「契約を結ぶ前に、もう一つ条件を出したい。『僕のためにならないことをしようとするな』。この条件を飲んでもらえるならば、契約しよう」
トオルは本当に、少しずれたところで、契約に対して慎重です。そもそも、悪魔と契約している時点で、神の立場から見れば「あなたのためにならないこと」をせざるを得ないのです。ですが、私たち悪魔の立場から見れば、トオル、全ての悪魔の所業は「あなたのため」を思ってやってあげるのですよ。その結果、あなたがどんなに嘆き悲しもうと、あなたの魂がこれからどれだけ黒く穢れようとも(そして結果的に地獄に落ちることになろうとも)、それは「あなたのため」なのです。
「いいわ、その条件を飲む。契約しましょう。この握手が契約の証しになるわ」
私は左手をトオルに差し出しました。トオルは緊張した面持ちでおずおずと左手を出し、私の左手を握りました。次の瞬間、私達の左手を黒い炎が包み込み、ごおっと音を立てて燃え上がりました。黒い炎がおさまると、トオルと私の左手の甲にそれぞれ、渦を巻くような炎の形の赤黒い痣ができていました。契約は完了です。トオルは自分の左手の甲をまじまじと見つめました。
「これで契約は完了。ところで、その娘の名前は何と云うの」
「アヤ」
「アヤちゃん、素敵な名前ね。その彼氏は」
「ケイスケ」
「いいわ。じゃあ、私は今晩から、アヤちゃんの夢にお邪魔してケイスケのことを調べる。準備が整ったら、トオル、あなたがアヤちゃんをケイスケから救い出すのだから、私が教えてあげる通りに行動するのよ」
トオルは少々困惑したようでした。
「『私が教えてあげる通り』って、僕はいったいどんなことをすればいいというんだ」
「それはまだ分からない。これからアヤちゃんとケイスケのことをいろいろ調べるから、あなたは今は、ちょっと待っていなさい。悪魔の仕事にも手順はあるのよ。それから、私はしばらくここから姿を消すけれど、用があったら、いつでも呼びなさい。いいわね」
トオルは神妙な、しかしどこか不安げな表情で頷きました。
 さあ、これから悪魔の大仕事の始まりです。私は姿を消しましたが、アヤの夢の中へ行く前にやっておくことがあります。出掛ける前に私は、右足に履いていた金のヒールサンダルを脱ぎ、トオルのベッドの枕の横に置きました。トオルはこれから毎晩、自分やアヤがケイスケに酷く苛められる夢、ケイスケのせいで怪物に追い回される夢、アヤと仲良く話しているところをケイスケに邪魔される夢といったようなものを立て続けに見ることでしょう。もしかしたらトオルの気分や体調によっては、ケイスケを討ち滅ぼしてアヤと仲睦まじくなるハッピーエンドの夢も見ることができるかもしれません。いずれにしてもトオルには、ケイスケを憎悪する気持ちを強く大きく育ててもらわなければなりません。私はそれを加速させるお手伝いをしますが、それは、トオル、あなたの胸の内にもともとから棲みついている怪物なのです。

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右斜め下

Author:右斜め下
人が苦しむ物語が好きなんだけど、苦しんでいれば何でもいいってわけでもない。
自分でも「こういう話が好きです」と一言で言えないから、好きな話を自分で書いてしまおうと思った。
SとかMとかじゃないんだ。でもどっちかっていうとM。

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